今回紹介する本は、石原千秋さんの『大学受験のための小説講義』(ちくま新書)です。
こちらの本に出合ったのは高校一年生のときでした。
当時の国語の教科担任だった先生が紹介してくれました。
当時は大学受験にいずれ受けるであろうセンター試験に向けて読みました。
再読をしようと思ったきっかけとして、これから大学受験をする予定はありません。
ただ勉強との視点として考えることで、小説をより楽しむための何かヒントになるところがあればと思い、読みました。
読書会での本の紹介やSNSでの感想を見ていると深く読んでいるなと感心することが多々あります。
自分の感想が淋しいものに思えてしまうことがあります。
そのようなときは、どうしたら深く読めるのかを考えます。
そもそも小説を読むときに大切なことはなんでしょうか?
著者の石原さんはメタファーを考えることが大切だとおっしゃっています。
メタファーとは比喩、例えのことです。
登場人物の感情を直接書くのは野暮な話です。
〇〇は〜〜と思った、と直接書くことはしないのです。
気持ちは行動に現れますし、天気といった外部要因にも表されます。
全体を通したテーマは他の登場人物によって語られることもあります。
Aという登場人物の気持ちがBやCといった他の登場人物を通して語られるのです。
それが描かれることは作品にどのような意味を持つのか考えながら読むことが大切です。
その小説をどのように読んでいるかを把握するために「物語文」というものをつくることがおすすめされています。
物語文とは、一つの主語とそれに対応する熟語からなる文を言います。
基本形は、主人公の行動を要約した「〜が〜する物語」と、主人公の変化を要約した「〜が〜になる物語」のふたつです。
主人公を入れ替えながらいくつもの物語文をつくることで、視点が広がっていきます。
小説はたくさんの物語の束からできているということです。
受験に関して言えば、出題者と視点を合わせることが大切になってきます。
たくさん生み出される物語文から出題者と視点を合わせることです。
これがうまくできれば設問にはすんなりと答えられます。
本来、書かれているものに対してどう感じるかは自由です。
それがテストとして正解が出されるということは誰が見ても納得できる理由がなくてはいけません。
小説で点数が取れる人は、自然と出題者と同じ視点で見ることができているということになります。
また大学受験というのは教育の一環なので、学校教育という道徳の中で考える必要があります。
道徳的に正しくないことは正解にはなり得ないのです。
アウトローな生き方が好みの方には向かない世界なのかもしれません。
小説を読んだら物語文をつくるようにしていこうと思いました。
そこで生じる「なぜ?」を考えていくことが小説の楽しみにつながっていくのだと思います。
受験を控えていなくても、より深く小説を楽しみたい人におすすめしたい一冊です。