今回紹介する本は、東野圭吾『魔女と過ごした七日間』(角川書店)です。
東野圭吾さんの作品に初めて出合ったのは『流星の絆』(講談社文庫)でした。
当時は存じ上げておらず名前に同じ「吾」が入っているから親近感を覚えて買ってみたくらいの感覚でした。
何作か読んでいるうちに『秘密』(文春文庫)に出合い、この作家さんの本は全て読もうと決心をしました。
コツコツと高校、大学時代に読み進め、今ではコンプリートしています。
なのでいつも新作を楽しみにしている作家さんのひとりです。
今回は「ラプラスの魔女シリーズ」です。
東野圭吾さんの作品はシリーズものでもどれから読んでも楽しめるのが特徴のひとつです。
手にした、もしくはみかけた順番に手に取る形で問題ないです。
物語の中心人物は中学3年生の少年です。
若くして母親を亡くしていましたが、事件に巻き込まれた模様で父親も亡くしてしまいます。
銀行口座が凍結されないように、まずは記帳をしにいきますが、そこで不透明な振込をしていることが発覚します。
それを調べようとしている過程で「魔女」と出会うことになります。
雨の降る時間を正確に当てたり、ルーレットの玉を入れる位置を自在にコントロールしたりと、ありとあらゆる物理現象を正確に予測、推理することができます。
服装がいかにも魔女っぽいというわけではなく、あらゆる物理現象を予測できる様子を聞かれた際に、それなら魔女とでも呼べばと返したところからきています。
少年の父親には女性がいることがわかり、その間には娘がいることも発覚しました。
特別な能力をもつ人たちを研究する機関での生活を送っていました。
人間のもつ特別な能力というのは人工知能の前では役に立たないのでしょうか?
一般人とはかけ離れた能力をもっていたとしても無力なのでしょうか?
東野圭吾さんの作品の魅力は圧倒的な読みやすさと緻密な構成にあると思います。
ミステリの観点でいうと今回は少年の父親は誰に殺されたのか(フーダニット)です。
それに警察のAI捜査が絡んできます。
近未来で実際に起こっても何もおかしくないことだとわたしは感じました。
こういう社会がやってきたとしてもAIは人類を幸せにしてくれるのか、という問題提起をしているようにも思います。
少年を最後まで寄り添って救ってくれたのは魔女はもちろんですが、仲良しの友人とその家族でした。
人間だからこその良さというのは必ずあるものです。
必ず正解を最短距離で出すことができればそれが一番なのかもしれませんが、それによって軋轢を生むのであればやり方を考えなければいけないでしょう。
また、東野圭吾さんは作品が古くなることを恐れない作家さんなのかなと思いました。
全国民のDNAを管理する世の中というのはやってきてもおかしくはないと感じました。
そういう世の中が10数年後やってきたからこの本を読むとある種の古さ、もしくは滑稽さを感じるのかもしれません。
それでも小説が読まれる一番のタイミングは今であり、その気迫のようなものを私は感じました。
大満足の一冊でした。