アカデミックなミステリーを堪能しました

今回ご紹介する本は、鈴木結生さんの『ゲーテはすべてを言った』(朝日新聞出版)です。

天狼院書店での読書会で取り上げられると知り、読みました。

第172回 芥川賞受賞作品です。

21歳の大学院生という若さで受賞されたのも驚きですが、21世紀生まれ初の受賞とのことです。

私の年齢も一回りした人はすでに成人であり、現時点で大学卒の年齢であることを考えると歳を重ねているのだなと実感しました。

 

物語の主人公は博把統一(ひろばとういち)というゲーテの研究をする学者です。

その学者がティーバッグに書かれていたゲーテの言葉とされるものを目にします。

Love does not confuse everything, but mixes.

とあります。

「愛はすべてを混淆せず、渾然となす」と自身で訳したこの言葉の出典を求めていきます。

出典不明の言葉を探していくという点でミステリーに分類をして間違いはなさそうです。

その過程で研究者としてのスタンスや家族、愛についてなどに触れられています。

 

ゲーテはドイツの生まれであり、ドイツにはタイトルにもなっている「ゲーテはすべてを言った」という言葉があります。

この言葉はジョークでも使われるそうです。

当然ながらゲーテ学者としてティーバッグに書かれているような言葉を簡単に知らないということもできないでしょうし、またその言葉は発せられていないということもできないのだと思います。

発言していないとは言えないこの状況は研究の第一人者としてモヤモヤを抱えるところかもしれません。

研究に偽装はいけないことは明確ですが、どこまでが超えたらいけないラインかどうかというのはきっと当事者でしか味わうことができない感覚なのではないかと感じました。

 

今まで読んできた小説のなかではとてもアカデミックな内容だと感じました。

言葉をどう捉えるかは個人の感覚によるところが大きいです。

名言と呼ばれるものは言葉そのものよりも案外誰が発した言葉かの方が大事のような気がします。

有名な人が言っているのと無名の人が言っているのでは、同じ言葉であっても説得性や拡散力は大きく異なるでしょう。

何を言っているかどうかよりも誰が言っているかの方が、名言かどうかを考えるうえでは鍵を握るように思います。

実際にこの小説のなかでも誰々の言葉とされているものが実際はその人が引用したものと書かれているものがありました。

有名な人が言葉を引用した結果、その有名な人の言葉として後世にまで記憶されてしまうことが多々あるようです。

 

小説の展開として、明示はされていませんでしたが、現代の現実に即した人やテレビ番組を思わせる記述があり、クスッとする部分もありました。

また大学の学者を主人公としていますので、自分が普段は触れない世界や考え方を知ることができて面白かったです。

 

私は学生の頃から読書を続けてきました。

当然ながらその頃は年上の著者の方が大半でした。

意図的に選ぶことを避けていたわけではありません。

ただ、自分よりも若い人の本を手に取るときどのような気持ちになるんだろう、というのはありました。

 

正直、ここまでの才能を見せつけられると嫉妬なんてものは全くないんだなというのも気づきました。

今のところ小説を書くというきはありません。

読んで深く楽しみたいというところです。

自分と比較して劣っていると感じることがないから嫉妬をしなかっただけかもしれません。

 

今後書かれていくものを楽しみにしています。

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文芸誌はバイキングのよう

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