あらすじで表現できないところに目を向ける

今回ご紹介するのは、小川洋子さんの『耳に棲むもの』(講談社)です。

書店を見てまわっていたところサイン本があったので購入しました。

小川洋子さんの作品のお気に入りは第一回本屋大賞を受賞した『博士の愛した数式』(新潮文庫)です。

他の作品を読んだ印象ですと、明確な結論や主張がわかりやすくあるわけではありません。

空気感を味わうという読書の醍醐味を感じさせられます。

 

刊行記念のオンラインイベントがあったので参加をしました。

帯にもありますが、原作となったものが映画祭に出展されています。

原作を小川さんが書き、それがVRアニメになり、それをもとにこの小説が書かれたということでした。

さらにそのアニメの元の絵が挿画として使われいます。

 

補聴器のセールスマンをしていた男が主人公です。

時系列に沿って書かれているわけではなく、断片をつなぎ合わせるような感じで書かれています。

 

イベントで小川さんは「優れた小説ほどあらすじを説明するとつまらなくなる」とおっしゃっていました。

このことはよくわかります。

別の視点から言うとあらすじがわかりやすい小説が優れた小説ではない、とも言えると思います。

読んだ人にしかわからない何かが優れた小説にはあるのだと思います。

 

男の耳の中には演奏家のカルテットがいました。

涙を音符にして演奏してくれていたと言います。

読みながらインナーチャイルドの話を思い出しました。

自分の心の中にいる小さなもう一人の自分です。

何かがあったときに自分自身に語りかけることがあると思います。

その相手が男にとっては耳に棲む演奏家だったのかなと思います。

 

長年疑問に思っていたことのひとつに小川さんの小説には登場人物の名前が見られないところがあります。

この小説では主人公は「男」です。

その理由として小説を書く段階では小川さん自身も登場人物とは初対面の感覚であることをおっしゃっていました。

その初対面の相手にいきなり名前をつける権利はあるのかということを考えるそうです。

 

先にも述べた通り、明確な結論がないため解釈は人それぞれだと思います。

それもまた読書の魅力なのかなと思います。

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