吉田修一『国宝』を読んで、考える芸能の世界。

今回ご紹介する本は、吉田修一さんの『国宝』(朝日文庫)です。

第8回 札幌ゼロ読書会課題本読書会でも取り上げました。

課題本読書会は推薦本の中から投票で選んでいます。

今回、『国宝』を推薦したのは私でした。

800頁越えの大作ですが、他の方がどのように感じたかを知りたく選んでみました。

 

映画をきっかけに手に取られた方も多いのではないかと思います。

映画も大作で3時間のボリュームがあります。

それでも映画では描くことができない部分がありますし、脚本での変更もあります。

映画に無駄なシーンは1秒もないというのを聞いたことがあります。

観てよかったと感じる作品は間違いなく、そのように感じますし映画『国宝』も例外ではありませんでした。

それと同じように小説も無駄なシーンというのはないのだと思いました。

句読点の打ち方ひとつをとっても計算されている部分がきっとあるはずです。

 

これまで吉田修一さんの本は数冊読んできました。

お気に入りは『横道世之介』シリーズです。

やはり魅力は圧倒的な読みやすさと人間を描き方だと思っています。

純文学の代表である芥川賞と大衆文学の賞の山本周五郎賞を合わせて受賞していることでも有名です。

今回の『国宝』は歌舞伎の話であり、実際に黒子として3年歌舞伎の世界を取材したことを記事で目にしました。

映画を観てから、小説を読みましたがシーンがありありと浮かんでくる様子がありました。

物語には、語り手の存在があります。

「〜でございます」の口調であり、それがぐっとその時代に引きずりこんでいく感覚がありました。

私は歴史小説が苦手なのですが、その一つに時代背景が想像しにくいというのがあります。

作品の舞台は戦後からなのでそこまで昔の話ではありませんが、今の時代ではありません。

しかし、その時代背景を理解しながらすらすらと読み進められる感覚が不思議でした。

 

私は芸能の文化を深く理解しているわけではありません。

「家」や「血筋」と言われるとそういうものであるというか、伝統ってそういうものなのかなくらいの感覚でしかありません。

物語の主人公である立花喜久雄は任侠の家に生まれます。

抗争の果てに長崎を離れ、歌舞伎役者の花井半二郎の元で世話になることになります。

半二郎の息子が俊介であり、共に芸を磨いていくことになります。

二人ともスムーズに芸を身につけ、進んでいくわけではありません。

そこに小説の面白さがあるとも言えます。

舞台から離れて経験を積むことが巡って身を助けることがあります。

この二人の隆盛は読んでいただけるとわかっていただけるのではないかと思います。

 

私は映画を観てから小説を手に取りました。

当然、描かれ方が違うところもあります。

映画に引っ張られて「あれ?」と思うところがありましたので、再読をして読書会に参加をしました。

映画では冒頭部分でしか出てこなかった徳次が良い存在感をかもしだしているなと感じました。

一度読んだ作品であっても何度も読むことによって解釈の仕方が変わるところが小説の面白いところです。

正解がひとつとは限りませんが、どう解釈をしてもいいというものではないと思っています。

 

読書会での一番の発見は語り手の存在でした。

歌舞伎の話にぴったりの語り口なのですが、最後のシーンで「この歌舞伎座の大屋根から見下ろしておりますと、」という記述があります。

この語り手は歌舞伎の神様のような存在なのかと言われてなるほどと思いました。

 

上下巻合わせて800頁越えの大作ですが、早く続きが読みたいと気になりながら読み進めることができました。

映画と合わせて楽しんでいただけたらと思います。

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