幸福人の身近で

坂口恭平さんの本を好んで読んでいます。今回ご紹介する、『幸福人フー』(祥伝社)の冒頭に「もう自分の説明はしません」と書かれている通り、坂口さんが何をしている方なのか一言で説明するのは難しいです。職業の枠を超え、多様な活動をされています。

坂口さんの活動の一つが執筆です。ひとつのテーマを掘り下げて書いており、まるで夏休みの自由研究をより深く追求しているかのような印象を受けます。

研究の対象は、彼の奥様であるフーちゃんです。坂口さんは「幸福人」と表現しています。幸福人とは何なのか? そして坂口さんはそこからどのような影響を受けているのか? それらについて述べられています。

坂口さんについて語る際に頻出するテーマの一つが躁鬱病です。彼は投薬治療を受けていないとのことです。鬱状態の際には深く苦しんでいる様子が描かれています。その際、フーちゃんは「調子が良いときはこう言っていたよ」と伝えるそうです。坂口さんは、回復して良い状態になると鬱の時のことを覚えておらず、再び精力的に活動しますが、また鬱になるとその時のことを忘れ、自己否定を繰り返してしまうそうです。

フーちゃんは、どこまでも「今」を大切に生きる方だと感じました。鬱状態の坂口さんに対する彼女の接し方は安定していて、それは単に励ますというよりも、もっと別のものかもしれません。

困ったことがあると、すぐに検索する人も多いと思います。印象に残った部分を一つ紹介します。

フーちゃんは何か問題が起きた時に、何か検索したりしないんですね。フーちゃんは目の前のことを、必死に、どうやったらそれなりに事が順調に進んでいくか、ってことを具体的に考えることしかしません。

坂口恭平『幸福人フー』(祥伝社)(p93)

フーちゃんは、今どうすれば良いかを考えているので、不安を抱えることもなければ、期待をすることもないのだそうです。

坂口さんは、フーちゃんのような人は「なりたくてなれるものではない」と考えています。私も同じ意見です。けれども、こういった方が身近にいることへの感謝を感じましたし、フーちゃんがいるからこそ、現在の坂口恭平さんがあるのだと感じました。

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