今回ご紹介する本は、仁平千香子さんの『読めない人のための村上春樹入門』(NHK出版新書)です。
もちろん全作品ではないのですが、村上春樹さんの作品は好んで読んでいます。

早稲田大学内の村上春樹ライブラリーにも行ったことがあります。
好んで読んではいるのですが、書いてあることをどこまで理解できているかを聞かれると自信がありません。
なんだかよく分からないけれども読まされる力のある作品としか言えないことも多々あります。
読書会の話題にもあがることはありますが、苦手とする方がいらっしゃる印象があります。
これに関してはそれだけ名前の知られた日本を代表する作家であり、手に取られるということは批判の対象にもなりやすいのだと思っています。
手に取られる人が多いということは好まれる分、読みにくいと感じる人の総数も多くなるはずです。
少しでも村上春樹作品に対する理解と接し方を吸収できればと手に取ったのが本書です。
著者の仁平千香子さんは、シドニー大学で村上春樹研究により博士号を取得しています。
これから読もうという人も私のように読んだけれども理解しきれていないと感じる人に対してもおすすめの一冊となっています。
冒頭で、村上春樹さんはデビューから一貫して同じテーマを扱っていると言います。
それは、「自由を生きる」ということです。
仁平千香子『読めない人のための村上春樹入門』(NHK出版新書)(p5)
現代社会において自由に生きることはとても容易ではありません。
どう伝えるかを考えたときに物語を選んだとも言えるのかなと思いました。
オウム真理教の一連の事件を取材した記録のノンフィクションに『アンダーグラウンド』があります。
オウム真理教の麻原彰晃も同じように物語を通して語る人物であったと言います。
しかし、そこには明確な違いがあり疑問を持たせるか否かというところにあります。
村上作品は複雑で疑問を持たせることにより読み手に思考を促しているのだという特徴があることがわかりました。
私は村上春樹さんの生き方そのものにも憧れているところがあるのかもしれません。
ストイックに作品に向き合っている姿はエッセイから見て取ることができます。
個人的に好きなのは作家を目指すことにしたエピソードです。
ヤクルト戦を観ていて、外国人選手が2ベースヒットを打った瞬間に自分にも小説が書けると思ったというエピソードがあります。
正直に言って意味がわからないですし、謎です。
しかしそのような理由があるもの全てが自分の生活を成り立たせているわけでもないので、なんとなく受け入れていることってあるのだと思います。
本書を読んで村上作品への関心が高まりました。
「自由」という視点を持ち、思考を沈潜しながら読み進めていこうと思います。