湊かなえ『残照の頂 続・山女日記』(幻冬舎)

今回ご紹介するのは、湊かなえさんの『残照の頂 続・山女日記』(幻冬舎)です。

サイン本を購入していたものの長らく積読にしていました。積読にしている間に文庫本が出版されました。文庫本まで待っていれば、その分安く読むことができたとも言えますが、読みたいと思った本を手元に置いておくことにも意味があることを考えるとその点に関して損をしたという感覚はありません。

副題として『続・山女日記』とありますがストーリーはどれも独立していますのでこちらから読んでも大丈夫です。山に登る女性たちが主人公となっています。一人称視点から書かれるところがほとんどを占めています。一人称視点の小説はわたしが読むものに関しては少ないのではないかと思います。それぞれの人物が個人の思いや問題を抱えながら山に登っています。結論が出ることもあればそうもいかないこともあります。うまくはいかなくても折り合いをつけることはできます。山登りは時間がかかります。果てしなく遠い道のりのように見えても一歩一歩足を踏み進めていくことで見えてくる景色があるものだと感じました。

印象に残ったところを紹介します。

通過したつらい日々は、つらかったと認めればいい。大変だったと口に出せばいい。そして、そこを乗り越えた自分を素直にねぎらえばいい。そこから、次の目的地を探せばいい。

湊かなえ『残照の頂 続・山女日記』(幻冬舎)(p272)

山頂にたどり着くというのはゴールではなく、次に向かうためのスタートなのだと思います。わたし自身、過去のつらかった思い出を「あのときはそのようなこともあったなぁ」と美化するのは好きではありません。過去をそのまま受け入れるだけでいいと考えるとそれだけでも心が少し楽になるような気がしました。

著者の湊かなえさんは好きなものとして山をあげているだけあって、山登りの様子がとても臨場感があると感じました。山登りは長い工程になりますので、内省の機会を与えてくれます。わたしは高校時代山岳部であったのでまた山を登る機会が持てたらいいなと思いました。

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