地図のように基本をアップデートさせていく

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昔の話をちょっとしたいと思います。昔といっても高校生のときの話です。私は山岳部に属していました。基本的には登山道に沿って歩きますし、顧問の先生の先導で登っていますので遭難するような不安はありませんでした。それでも休憩の地点ごとに部員同士で現在地がどこかを確認していました。現在地を確認するには地図とコンパスが必要です。登りながらその都度確認していればある程度の場所は簡単に予測することができます。万が一遭難するようなことがあっても、地図とコンパスが手元にあり、ちょっとした知識があれば現在地を把握することができます。

この現在地を把握するということは登山における基本であり、そのまま人生における基本でもあると私は思っています。登山においては地図やコンパスが当たりますが、人生においてはどうでしょうか? 人間が人間である所以は言葉にあると私は考えています。言葉なしでは考えることはできません。だからこそ言葉は重要です。自分で考えた価値感を言葉で表すことが大切だと思っています。言葉を通して思考を感じることができるのが読書の醍醐味でもあります。言葉を通して価値観を考えることが思考の最小単位であり、自分自身の立ち位置を考えることでもあります。そのことを松浦弥太郎さんの『松浦弥太郎のきほん』(扶桑社)を読んで改めて思いました。

この一冊は松浦さんの幼少期から始まり、衣食住や普段使いの道具、旅について基本となることを振り返って記述されています。

印象に残ったところを二つ紹介します。
一つ目は「まずは落ち着こう」(p52)からです。
お父様の教えで「深呼吸を忘れるな」というのがあったそうです。幼少期に言われていたことが50歳になって腑に落ちたとのことでした。深呼吸をすることは落ち着くことにつながります。私は「落ち着く」ということをモットーにしています。落ち着きがないと感じるときは通常ではないちょっとした緊張状態です。心臓の高鳴りを感じていますし、呼吸も早くなります。そのような時には少し落ち着いて俯瞰的になることが大切です。そのためには一呼吸置いて事に臨むのが大切だと感じました。

二つ目は「ていねいとは感謝すること」(p137)です。
ていねいいとは何かを祖母に尋ねるとこのように返ってきたそうです。

「ていねいというのは、ゆっくりやることでもなく、慎重にやることでもなく、ありがとう、という感謝を表すこと。心の中で、いつもありがとうございます、って思うこと」

松浦弥太郎『松浦弥太郎のきほん』(扶桑社)(p137)

「ていねいな暮らし」という言葉が一般的に使われるようになって「切羽詰まった感がある」という記述を見たことがあります。松浦さんが実践しているのとは感覚が少し違うのかなとこの部分を読んで思いました。感謝の意を示しながら行動すれば自然とていねいになるのではないかと思いました。

松浦さんが幼少期から振り返って改めて「きほん」について考えた一冊となっています。知らなかったエピソードも当然あり、興味深かったです。この本を読んで私も自分のモットーにしている言葉を振り返り、ブラッシュアップさせました。山の地形図はそこまで変わることはありませんが、街中の地図は目まぐるしいほど変化をしていきます。一度決めたらずっと貫き通すというよりも、一度作った基本を、まるで地図がアップデートされるように変えていくのも大切なことだと思います。私が更新したモットーは「無理しない、焦らない、落ち着く。よりよく生きる、今日もていねいに」です。何かに迷ったり、壁にぶつかったりしたときこそ基本に立ち返ることを忘れずに生活していきます。

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