科学×人間ドラマの温かな融合〜伊与原新『藍を継ぐ海』を読んで〜

今回ご紹介する本は、伊与原新さんの『藍を継ぐ海』(新潮社)です。

天狼院書店の「インフィニティ∞リーディング」の課題本として読みました。

本作は、第172回直木三十五賞受賞作品です。

私は、この作品が伊与原新さんの本を読むのは初めてでした。

 

表題作を含む、5つの短編作品で構成されています。

どの作品もポジティブな終わり方で、とても心地よく読めました。

伊与原さんは科学に造詣が深いとのことで、人間ドラマと科学の融合という言葉がぴったりではないかと思います。

 

表題作『藍を継ぐ海』は、ウミガメを題材にした物語です。

主人公たちは、ウミガメが産卵した卵を拝借し、育てようとします。

ウミガメは海流に乗り、世界を回遊した後、再び生まれた場所へ戻ってきます。

しかし、大人になれるのは100匹のうち、わずか2〜3匹ほどだそうです。

主人公は、そんなウミガメの生き方と、東京へ行ってしまった姉を持つ自分自身を重ねていきます。

印象に残った一節を紹介します。

「人間も、同じやと思うんよ。好きなところで、気に入った場所で、生きたらええの。生まれた土地に責任がある人なんて、どこにもおらんのよ」

伊与原新『藍を継ぐ海』(新潮社)(p262)

私は恵庭市で育ちました。

札幌から電車で1時間もかかりません。

「いつか地元に帰りたい」という強い想いはありませんが、育った場所への愛着はあります。

今、住んでいる札幌に感謝しながら、これからも大切に過ごしていきたいと思います。

この一節を読んで、ふるさと納税の本来の趣旨も、こうした「生まれた場所への想い」からくるものなのだろうと考えました。

どの作品もおもしろく、楽しんで読みました。

私の中で「理系の作家」といえば東野圭吾さんですが、本作はまた違った形で科学を取り入れていると感じました。

興味を持った方は、ぜひ手に取ってみてください。

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