読書の目的を見失わないために〜東野圭吾の警鐘〜

今回ご紹介する本は、東野圭吾さんの『超・殺人事件 推理作家の苦悩』(新潮文庫)です。

確定申告の作業をしているときにこちらに収録されている『超税金対策殺人事件』を思い出し、再読をしました。

所得とは収入から経費をひいたものであり、それに対して税金がかけられます。

当然ながら経費が少ければその分所得が高くなるのでかかる税金も増えます。

裏を返せば経費が多ければその分所得は減るので、税金は安くなります。

売れっ子になった作家が主人公です。

確定申告前に税理士からもらった概算に驚きました。

なんとかならないか相談をしたところ経費として落とせるように小説の内容を変えていくことにしました。

その結果、小説の内容がぐちゃぐちゃになってしまうといったお話です。

ブラックな話ではありますが、経費とするべきものはちゃんと説明できる範囲に留めておくべきだと感じました。

 

他の作品も読みましたが、特に印象に残ったのが『超読書機械殺人事件』でした。

文学賞の選考委員である作家は多くの選考作品を読み品評をしなければなりません。

それには多くの時間が必要です。

その作家に営業がやってきます。

それは代わりに読書をしてくれる「ショヒョックス」という機械でした。

これに本を読み込ませると要約だけでなく書評も出力することができます。

ただ同業者も使うことで同じものが出てくるという問題がありました。

これに対して過去のその人のものを読み込ませることによりオリジナルのショヒョックスが開発されました。

これにより本を読まなくても感想が書けるということになりました。

書き手としては読まれていないのに判断をされるというのはたまったものではありません。

そこで同じ営業マンがショヒョックス・キラーを発明して、ショヒョックスが高い評価をどのようにすれば書けるか指南するマシンを提供します。

選考員をはじめとする人たちは本を読まずに選評するのではないから、それを判断するマシンに向けて小説を書くことを薦めます。

ここまで書いてきて令和の時代になり、違和感がないと感じるではないでしょうか?

この小説の内容はほぼ生成AI技術で実現可能です。

読まずに本のあらすじを手に入れることも、感想文っぽいものを書かせることも可能です。

選評員と小説家の双方に営業を行う黄泉は最後にこう述懐します。

本物の本好きなど殆どいないのだ、というのが黄泉たちの考えだった。今の世の中、のんびりと本を読んでいられる余裕があるものなどいやしない。本を読んでいないということに罪悪感を覚える者、本好きであったという過去に縛られている者、自分を少々知的に見せたい者などが、書店に足を運ぶにすぎない。彼等が求めているのは、本を読んだ、という実績だけなのだ。

東野圭吾『超・殺人事件 推理作家の苦悩』(新潮文庫)(p301)

読みたい本は増えていく一方ですが、読まなければならないとならないように気をつけたいなと思います。

それを失うと手段と目的がぐちゃぐちゃになってしまいそうです。

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