朝井リョウ『正欲』(新潮文庫)

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今回ご紹介するのは、朝井リョウ『正欲』(新潮文庫)です。

傍観者から小説を読んで考えることが当事者のように感じさせられました。

これは『何者』を読んだときにも味わされました。

 

タイトルは“正しい欲”と書いて正欲です。

音から聞いておそらく連想される“性欲”にも話は絡んでいます。

昨今、多様性やダイバーシティという言葉が叫ばれるように、LGBTQを認めようと言われますし、私の働く会社でも教育の一環として学ぶ機会があります。

 

分からないものを理解しようとするのは難しいところがあります。

それの理解に努めようとすることはできます。

ただそこには壁があると思います。

「あなたのことはわかっている」という言葉で相手が救われることはなく、「何をわかっているんだろう」という疑念を抱くことになると思います。

 

また少数派としてラベリングしてしまうことに怖さがあります。

言葉に当てはめてしまうことでひとりの人として接することから離れて、何か大切なものを失ってしまう気がします。

 

先ほどの「あなたのことがわかる」という言葉の裏には気づかずとも自分は多数派に属するという感覚があるのかもしれません。

何となくの多数派に属している感覚というのが世間ではこうだ、という正しい欲を振り回してしまうかもしれません。

 

LGBTQに分類されないような性癖をもつ人であって当然いるわけです。

それは無機質なものかもしれませんし、他の生き物に対するものかもしれません。

そういう人たちに対してどう接していくのか、その人たちで小さなコミュニティが作れたら問題がないのか、社会のなかでお互いが生きていくうえで何ができるのか、個人でできることを考える大きな問いを投げかけてきたような作品でした。

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