ふと見上げた空に心を奪われたことがある人は多いのではないかと思います。私が今までに感じたショックな出来事の上位は雲に乗ることはできないという事実を知ったことでした。見ていたアニメではふわふわとした雲の上で遊ぶ様子が描かれていました。しかし現実にはそれができないと幼稚園での絵本の読み聞かせで知ったときは残念な気持ちになりました。しかし雲がどういうものなのか具体的に説明できるほどの理解はありませんでした。
そのような子供のころの体験を思い出させてくれたのが、荒木健太郎さんの『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)です。著者の荒木さんは気象学者、雲研究家です。新海誠監督作品『天気の子』では気象監修を行っています。雲や雨、虹、雪、台風、月の満ち欠けといったあらゆる気象、天文現象をわかりやすく解説されています。雲の発生メカニズムを味噌汁で説明されていたりと身近なものに置き換えて説明されているのもわかりやすいポイントです。
この本のわかりやすさは著者の荒木さんの文章だけでなく、構成によるところも大きいのかなと感じます。ほのぼのとしたイラストや美しい写真の数々もぐっと惹き込まれるものがあります。わたしは大学時代は地球海洋学科に属していました。3年生のときに中退をしたので専門分野に入る前でそこまでの理解はないのかもしれません。それでも専門書というのは文章が多く、数式が多い印象を受けました。この荒木さんの著書にはそのハードルの高さを感じさせるものがありませんでした。
むずかしいものをわかりやすく伝えるというのは大変なことです。むずかしいものをそのまま伝えることのほうが簡単です。具体的には専門分野を同じレベルの人と話す場合です。専門用語を遠慮なく使うことができます。しかしそれは入門書では通用しません。身近な例に例える必要も出てきます。この本はその専門分野と具体的な例のバランスがとても良いと感じました。そういう意味では何かを教える人の教科書のような側面も持つ本なのではないかと思います。
タイトルにもあるとおり、これからふとした瞬間に空を見上げるのが楽しくなりそうだなと感じました。同じ空であっても見る人によって受ける印象は異なります。空というものは単なる物理現象ではなく、そこには無限の物語があります。その物語を知っていると、日常の空から新しいものを得ることができるのかもしれません。